美しい人 - You're beautiful no matter what they say -

by Nana Jugo

 


 
 
 
 
 
いつだったっけ? あの人が最初にこの店にやってきたのは。
 
もうずいぶん昔のことだったような、そうでないような。
 
窓から西日がさしていたから、午後だったと思う。
 
とびぬけて背が高くて、あざやかな赤毛が目を引いたんだ。
 
整った顔立ちのせいで少し冷たい感じがしたけど、思いきって話しかけたらはじけるような笑顔をくれた。
 
はじめは年上かと思ったけど、笑うと案外かわいくて、あたしより年下かもしれないと思った。
 
学生さんかな―――。
 
ローリングトン大学のコレッジが集中するこの界隈は、石を投げればかならず学生か学者に当たるって言われてるから、あたしの勘が鋭かったわけでもなんでもない。
 
ただあの人の話す上流階級のアクセントの中に、かすかな北の訛りが混じるのに気付いたのは、あたし以外そんなにいないはず。
 
なつかしい、バドゥ爺さんの言葉に少しだけ似てた。
 
はじめて会った日、何を注文したんだっけ。
 
コーヒー?
 
そうそう、それと梨。
 
お昼代わりにするんだって言ってカウンターのフルーツ皿に無造作に盛ってあった中から一個だけもっていこうとするから、もう一個おまけであげたんだ。
 
最初はちょっと面喰ったような顔してたけど、嬉しそうに「ありがとう」って言ってくれた。
 
ローリングトンの人?って聞いたら、ウォルシャーだって言った。
 
大学院に通ってるんだって。
 
オリント・ハーヴェイ。それが彼の名前。
 
あたしの名前を教えると、しばらく考えて「ではマイルスさんと呼ばせてください」だって。
 
なんか妙に礼儀正しくて、笑っちゃった。
 
あの人が帰ったあと、ラモナが浮足立っちゃって大変だった。
 
「ちょっとオルガ。良い男じゃん」
 
「そうね」
 
「あんたのこと、穴があくほど見てた」
 
「ははっ、ムネ開いた服のせいでしょ」
 
そりゃ、悪い気はしなかったけどね。

「貴族かな?」

「かもね」

どっちにしたって、大学に通えるくらいだから、いいところのお坊ちゃんに違いなかった。

「まともな学生さんは、あたしみたいなのに付きまとわれたら迷惑にきまってるさ」
 
「たしかにね。あんたは育ちは悪いし、口も悪いし」
 
「なぐるよ」
 
「乱暴者だし」
 
ラモナは、けらけらと笑った。
 
はちみつ色の髪が、ふわふわ揺れる。
 
可愛いラモナ。
 
もし妹がいたら、こんな感じだったのかな。
 
あたしには言わないけど、まだときどき、夜の街に立ってるのを知ってる。
 
ラモナは、天涯孤独のあたしと違って、まだちいさな弟妹を1人で養ってる。
 
少しでも足しになればと、店の手伝いを頼んではいるけど、わずかな賃金じゃぜんぜん足りないみたいだった。
 
ラモナの屈託のない笑顔を見ると、あたしはいつも胸が痛くなる。
 
あたしだってバドゥ爺さんに拾われなきゃ、場末の安宿で死ぬまで体を売ってただろう。
 
自分だけ抜け駆けして、金づるつかまえて逃げ出したって、昔の仲間が陰口をたたいてるのも知っていた。
 
あたしだって、逆の立場だったら、そう思うだろう。
 
爺さんは、あたしを本当の娘のように可愛がってくれた。
 
みんなが陰口たたくような関係じゃ、けっしてなかった。
 
爺さんは、あたしに体を売らなくても生きていける術をくれた。
 
この店は、バドゥ爺さんがあたしに残してくれた、大切なものの一つだ。
 
感謝しても感謝しきれない。
 
だから一層、あたしも誰かの助けになりたいと思う。
 
それがせめてもの、バドゥ爺さんへの恩返しだと思うから。
 
 
 
****

 

オリントは、毎日大学が終わるとやってきて、窓際の席でコーヒーを飲むようになった。
 
いつも難しそうな本を読んだり、何かを書きつけたりしていた。
 
あたしはあたしで、カウンターから気付かれないように彼を見るのが小さな楽しみだった。
 
彼の鮮やかな赤毛は、窓から差し込む日差しに透けて、ルビーみたいな色に見えた。
 
男の人に、きれいって言葉は変かな。
 
でもほかに言葉が見つからなかった。
 
顔立ちも決して女っぽいわけじゃなくて、ちゃんと男らしいのに、すっとした鼻筋や、唇から顎の輪郭が彫刻みたいにきれい。
 
少し眉を寄せて、難しそうな本を読んでるのも絵になって、あたしはぼーっと見ていた。
 
ふとオリントが本から目を上げた。
 
そらす間もなく、目が合ってしまった。
 
オリントはほほ笑んだ。

心臓がどきんとした。
 
あたしはあわてて顔をそむけた。
 
不覚。
 
あたし、ぜったい顔赤い。
 
恥ずかしいのを隠すように、カウンターの中で忙しく働いていると、ベルがけたたましく鳴って客が入ってきた。
 
見ると、背の低い、若い男だった。
 
オリントの知り合いのようで、軽く会釈するように挨拶を交わしていた。
 
男はカウンターにやってくると、金を投げるようによこして、エールを注文した。
 
いやな男だと思っていると、男が
 
「あ!」
 
と、あたしの顔を見て急に声をあげた。
 
「あんた知ってる。前会ったことあるよな」
 
悪い予感がした。
 
「エルモアの店でさ。な?」
 
男は、場末の娼館の名前を口にした。
 
「な、な、こんど俺らの部屋に来いよ。学期末にパーティがあるんだ」
 
男はいやらしい表情をして、グラスを差し出したあたしの腕を指でなぞった。
 
「仲間の子たちも集めてよ。楽しもうぜ。金はたんまり払うから。な?」
 
かっと血が頭にのぼったのがわかった。
 
オリントに聞かれた。
 
会話の意味を彼がわからないはずがなかった。
 
「やめてください」
 
あたしは消え入りそうな声で答えるのがやっとだった。
 
「もうそういうことはやってないんです」
 
「じゃあ、誰か紹介しろよ」
 
「もう、そういうことは……」
 
「ふーん」
 
男は、さもつまらなさそうにあたしの手からグラスを奪った。
 
あたしは心臓が凍りつくかと思った。
 
男が、下卑た悪態をついたからじゃない。
 
オリントが、椅子から立ち上がって、こちらにやってくるのを見たからだ。
 
オリントの顔を見る勇気がなくて、カウンターの端をつかんで下を向いていた。
 
オリントは、男に言った。
 
「デイビス、いい加減にしろ」
 
「あ?なんだよハーヴェイ」
 
「やめろと言ってる」
 
「はあ?お前に関係ないだろ?」
 
「酔っ払って女性にからむ男を見るのは不愉快だ」
 
「誰が酔っ払って……」
 
「いいから行け。パーティより、卒業の心配をしろ」
 
オリントは聞いたことのないような凄みのある声で言った。
 
ただでさえ、長身のオリントは威圧感があった。
 
男は目を泳がせて、舌うちをすると、逃げるように店を出て行った。
 
「マイルスさん」
 
名前を呼ばれて、びくっとした。
 
「友人の無礼を許してください。後で、僕から言っておきます」
 
なにを言うの?あたしみたいな底辺の女をいじめるなって?
 
自分がひどくみじめに思えた。
 
「別に気にしちゃいないよ。慣れてるし」
 
「慣れてる慣れてないの問題じゃない。彼は貴女に失礼なことを言った。それが問題なんです」
 
「いいってば」
 
「よくありません」
 
「あたしがいいって言ってんだから、いいんだよ」
 
思わず言葉が荒くなった。
 
こんな態度、この人の前でしたくないのに。
 
でも止まらなかった。
 
「あたしのご機嫌取りして、どうしようっての?」
 
オリントは何も言わなかった。
 
ただ、じっとあたしを見下ろしてるだけだった。
 
まるで憐れんでいるみたいに。
 
それが居心地悪くて、黒い感情が沸き起こるのを抑えられなかった。
 
「あんたも、やりたいんじゃないの?」
 
心では、こんなこと言いたくないって叫んでるのに。
 
抑制のきかない感情に、涙が出そうになった。
 
「やりたいなら、そう言えばいいじゃないか。遠まわしなことしないでさ」
 
言いながら、あたしはカウンターを出て、彼の目の前に立った。
 
挑戦的な目で、背の高い彼を見上げた。
 
オリントは、戸惑ってるように見えた。
 
あたしはオリントの手を取って口に持っていき、見せつけるように指を咥えた。
 
まるで彼のモノを疑似愛撫してるみたいに、ぐるりと爪のまわりを舐り、舌先でちろちろ関節の皮膚の薄いところを舐めた。
 
オリントはじっと、それを見ていた。
 
欲情を駆り立てるように、わざと音を立ててしゃぶった。
 
指の間を這いまわる舌をわざと見せつけてやった。
 
心は泣いていて、でもあたしはそれをやめられなかった。
 
「マイルスさん、もうやめなさい」
 
手首をつかまれたかと思うと、息がとまるくらいの強さで抱きしめられていた。
 
「はなせっ馬鹿っ」
 
「はなしません」
 
もがけばもがくほど、さらに強い力で抱きしめられるから、たまったもんじゃない。
 
「この馬鹿力!」
 
しまいには、抵抗するのも疲れて、あたしはすっぽりとオリントの腕におさまってしまった。
 
「自分で自分を傷つけているとしか思えません」
 
大きな手で頭を撫でられると、自分がすごくちっぽけでか弱い存在に思えてきた。
 
実際、オリントから見れば、あたしを黙らせるなんて、片手で十分なくらいなんだろう。
 
「もうほっといてよ。自分がどんどん嫌いになる」
 
「僕は逆です」
 
オリントが聞こえるか聞こえないかの声で呟いた。
 
その言葉の意味を考える暇もなかった。
 
何が起こったのかも、わからなかった。
 
オリントの緑色の瞳がどんどん近付いてきて、吸いこまれそうだと思ったら、唇が触れていた。
 
はじめは、触れては離れるだけのキス。
 
それからだんだん、熱を帯びてきて、あたしは思わず声を上げていた。
 
「んん、ふ…ぅ」
 
オリントの舌が入り込んできて、生き物みたいに這いまわった。
 
何が起こってるのか頭で理解しようとしても、思考能力が絡めとられてしまった。
 
お行儀のよさそうな顔して、このキスの巧さは反則だ。
 
髭の剃りあとが肌にあたって、ちょっと痛かった。
 
あたしはもう、抵抗する気も起きず、オリントの首に腕をまわした。
 
「ん……ん」
 
鼻にかかった声が、呼応するようにお互いの喉から漏れた。
 
あたし、このまま押し倒されて、カウンターの上で抱かれるのかな……なんて思ってたら、オリントが突然キスをやめた。
 
「……?」
 
あまりの喪失感に、あたしは言葉にならない抗議の喘ぎ声を上げた。
 
オリントは、少しあがった息を整えながら、苦々しげな表情をしていた。
 
まるでキスしたことが信じられないって感じだった。
 
「……無礼を許してください」
 
「そ…」
 
そんなことない、って言おうとしたら、ベルが鳴ってお客が入ってきた。
 
あたしたちは、ぱっと体をはなした。
 
あわてて、腫れた唇を手の甲でぬぐった。
 
「もう行きます」
 
オリントは本を取ると、テーブルにコーヒー代を置いて、出て行こうとした。
 
「待って」
 
思わず言ってしまった。
 
「今日、6時に店閉めるの…だから」
 
オリントは、驚いたようにあたしを見てたけど、かすかにうなずいて店を出て行った。
 
 
 
****
 

我ながら、なんてことしでかしたんだろう。
 
これじゃ、自分がそういう女ですって言ってるようなもんじゃないか。
 
でもあのまま彼を帰してしまったら、もう二度と店に来てくれないような気がした。
 
落ち着かなくて、意味もなくカウンターの中を行ったり来たりしてたら、ドアをノックする音がして心臓が跳ねた。
 
カウンターの後ろから走り出て、ドアを開けると、オリントが立っていた。
 
彼はこころなしか、緊張しているように見えた。
 
「来てくれたの」
 
「……すみません」
 
どうして謝るの?
 
あたしには、わからなかった。
 
「上がってく?」
 
こくんと頷いたオリントを、なんだか可愛いと思ってしまった。
 
あたしは彼を二階の部屋に案内した。
 
……いきなり?
 
ふつうの女なら、こんな真似はしないんだろうな。
 
安宿の娼婦に戻ったみたいな気がして、急に恥ずかしくなった。
 
お互い子供じゃないんだから、オリントが何をしにきたかなんて、わかってた。
 
しかも誘ったのはあたしの方だった。
 
今更、取り繕ったって仕方ないんだけど、いきなり部屋に上げてすぐに体を合わせるのはイヤだったのも本当だ。
 
黙りこくったままのオリントの外套を脱がせ、ソファに腰掛けさせた。
 
「お茶持ってくる」
 
「マイルスさん」
 
オリントが立ちあがって、あたしの手をつかんだ。
 
そのまま引き寄せられて、彼の腕の中にすっぽりと包まれた。
 
背中にまわされたオリントの手のひらは、少し震えていた。
 
あたしはそっと、彼の胸に頬を寄せた。
 
「いいよ、大丈夫」
 
何が大丈夫なのかわからなかったけど、とにかく言わなきゃって思った。
 
ぎゅっと、あたしを抱く腕に力がこもった。
 
仕立ての良いシャツ越しに、オリントの心臓が、早鐘のように鳴っているのが聞こえた。
 
上を向くと、それが合図だったように、オリントの唇が降りてきた。
 
あたしは腕をオリントの首に巻きつけて、それに応えた。
 
昼間より、ずっと性急なキスだった。
 
オリントの熱い舌が、あたしの口内を貪るように動いた。
 
好きな男にキスされるのって、どうしてこんなに気持ちいいんだろう―――。
 
オリントはすごく大切そうに、あたしの体に触れてくれた。
 
いつもは難しい本のページをめくる指が、あたしの胸を愛撫してることに、あたしはちょっと感動していた。
 
じつはあたし、本に嫉妬してたのかも……あんなに優しく大切そうに扱われて、彼に真剣に読んでもらえる本に。
 
ドレスのボタンに、少し手間取ってたみたい。
 
あたしは自分でボタンをはずして、脱がすのはオリントにまかせた。
 
オリントの大きな手のひらが触れるだけで、震えるような快感が肌を走った。
 
ベッドにあたしを横たえると、オリントは自分も服を脱ぎ捨てた。
 
白いシャツに隠れていた、たくましい上半身が現れて、あたしは柄にもなくどきっとした。
 
オリントは、ベッドを軋ませてあたしの上に覆いかぶさってきた。
 
息が荒くて、興奮しているのがわかった。
 
首筋にキスされて、耳たぶを舐られた。
 
手は、あたしの胸を優しく愛撫していた。
 
心地いい男の匂いに包まれてうっとりしてたとき、急にオリントが言った。
 
「こんなこと……やっぱりいけない」
 
「……どうして?」
 
こんなにお互い求め合ってるのに、いまさら何を言うんだろう。
 
ここで、やめられるわけないのに。
 
目を開けると、獰猛な、でもどこか赦しを請うているような表情であたしの顔を覗き込んでいた。
 
その表情は知らない男みたいで、でもあたしのよく知ってるオリントでもあって、あたしは少し不思議な気持ちになった。
 
「大丈夫だから……お願い」
 
オリントは、征服したいという雄の欲望と、受け入れてほしいという切実な願いがないまぜになった激情をもてあましてるように見えた。
 
大丈夫、あたしはそのすべてを赦して受け入れてあげられる。
 
言葉にするかわりに、両足を大きく開いて、彼の腰を招き入れた。
 
男らしく、しっかりと横幅があるその腰に足をからませた。
 
彼の重みを感じると、自分の体がひどく華奢に感じてしまう。
 
「ああ…マイルスさん…」
 
オリントの声は、擦れて、少し震えていた。
 
その切羽詰まった声に、あたしはぞくぞくした。
 
彼のモノはすごく大きくなって、あたしと彼の間で力強く脈打ってる。
 
彼が欲しくて、欲しくて、自分から腰を浮かせて、それに擦りつけてしまった。
 
「ッ……そんなにしたら……」
 
はやく……入れて。
 
あたしの中は、もっと気持ちいいよ?
 
そんな誘惑を込めて、舌をさしこむようにキスをした。
 
それが誘い水になって、オリントはたがが外れたみたいに、あたしに覆いかぶさって、唇を合わせてきた。
 
「んッ…ふぅ」
 
そのキスは今までにないくらい激しくて、まるで舌で犯されてるみたいだった。
 
「許してください…もう…」
 
なにを許すの? もっともっと貪ってほしいのに。
 
舌だけじゃなくて、ちゃんと、私の中に、早く入ってきてほしい……。
 
オリントは少し体を引いて、自分のモノを手であたしの入口にあてがう。
 
はやく――はやく。
 
待ちきれなくて、ひくついているあたしの中に、オリントはゆっくりと入ってきた。
 
いままで感じたこともないような質量感で、一瞬意識がとびそうになった。
 
入ってきただけでこんなに幸せなのに、今からあたし、どうなっちゃうんだろ。
 
見ると、オリントも奥歯をぐっと噛みしめて、押し殺した呼吸を繰り返しながら、じっと堪えていた。
 
あたしだけが、イキそうなんじゃないんだって、ちょっと安心した。
 
オリントは捏ねるように腰を動かして、ゆっくり出し入れを繰り返しながら、あたしの感じるところを丁寧に揉んでくれた。
 
固くなった乳首を指で弾かれるたび、びりびりとした快感が繋がっている部分に共鳴した。
 
切ない声が否応なしに漏れ出てしまう。……頭の片隅で、その声が、オリントをもっと誘惑すればいいと思いながら。
 
オリントは膝の裏に手を入れて、あたしの両足をさらに広げると、体の両脇に倒してベッドに押し付けた。
 
あたしは思わず、オリントのたくましい腰に手を置いて、もっと奥まで入ってきてほしいと切望した。
 
オリントはあたしの頭を抱えるようにすると、優しくキスしてくれた。
 
それが合図だったように、オリントの動きがより激しく直情的なものへと変わった。
 
激情を叩きつけるような腰の動きに、あたしはただただ翻弄される。
 
オリントの腰に置いた手のひらに、じっとりと汗がにじんだ。
 
一心に彼の名を呼んでいたような気がするけど、よく覚えてない。
 
壁に打ち付けないようにあたしの頭を押さえてくれてるんだと気づいて、愛おしさがこみあげてきた。
 
オリントはどんどん速さを増していった。
 
あたしは何か意味のない言葉を叫んでいたような気がする。
 
ある一点を超えたとき、急速に動きが緩まって、オリントは、充足の呻き声を漏らした。 

ほとんど同時に、あたしも大きなうねりに押し上げられ、達していた。
 
あたしの中が、ひくひくと震えて、中にいるオリントを絞りあげた。
 
オリントの放ったものを、さらに自分の奥へ奥へと飲み込むように。
 
 
 
****
 

一番鶏の鳴声がして、あたしは目を覚ました。 
 
まだ部屋は薄暗かった。 

ベッドにオリントはいなかった。
 
寝ぼけたまま、あたりを見回すと、オリントは出窓に腰掛けて、外を見ていた。
 
上半身は裸のまま、寝ぐせの少しついた髪の毛もそのままで、いつものきちんとした彼とは違って、柔らかい印象がした。
 
あたしが起きたのに気づいて、こちらを向いてほほ笑んだ。
 
あたしも、ほほ笑み返した。
 
あたしは裸にシーツを巻きつけているだけの、ものすごく無防備な姿だった。
 
心地よいだるさが、全身を覆っていた。
 
あたしは体を起こすこともできず、うっとりしたまま聞いた。
 
「もう…行くの?」
 
声を出してみて、少しびっくりした。
 
自分のじゃないみたいに、擦れて色っぽい声だった。
 
昨日の夜、声を出しすぎたせいかも。
 
ぼんやり考えていると、オリントがこっちへやってきた
 
―――また、あたしを抱こうとしてるのが気配でわかった。
 
オリントが体重をかけると、ベッドが軋んだ。
 
そのままあたしの体の上に、覆いかぶさってきた。
 
「ダメだってば……もう日が昇ってる」
 
気持ちは拒もうとするけど、体はオリントの愛撫に、あっけなく陥落してしまった。
 
「店を……開けなきゃ……オリント、大学……」
 
最後は言葉がうまくつむげなくなっていた。
 
「いいから黙って」
 
なおも言い募ろうとするあたしの唇に、オリントはついばむようなキスを落とした。
 
シーツの端をつかんでたあたしの手を長い指でほぐして、あたしから隠すものをぜんぶ奪い去ってしまった。
 
両腕を頭の上に固定されたまま、彼のキスを受けた。
 
オリントの指が、あたしの手首から肘を通って、二の腕をなぞって、脇に降りていく。
 
それだけで、体の芯に火がついた。
 
脇から滑り落ちてきた手が、あたしの胸を包んだ。
 
唇から、切ない吐息が漏れた。
 
彼の顔に触りたくて、手を頬に添わせた。
 
オリントは、それを追いかけるように顔をねじって、指にキスをくれた。
 
ああ、指だけじゃなくて。
 
ちゃんとキスして。
 
あたしはオリントの赤毛に指をからませて、ねだるように頭を引き寄せる。
 
オリントがあたしの上に降りてくる。
 
固い胸板に、あたしの胸は押しつぶされる。
 
オリントは深い、深い、口づけをくれた。
 
あたしの欲しいものをくれる代わりに、自分の欲しいものももらう、とでも言いたげに、オリントは、硬く芯の通ったものをあたしの中に埋めた。
 
「ああ……」
 
ふいに、涙が出そうになった。
 
どうしてかわからないけど、ほんの一瞬だけ―――夜が明けきったら、すべてが消えてしまいそうな儚いものに思えたんだ。
 
その思いも、オリントがくれる熱狂にかき消されて、すぐに、なにも考えられなくなったけど。
 
 
 
 
****
 
 
 
あたしの勘って、いつも悪い方に当たるんだ。
 
オリントは、その日から、ぱったりと店に来なくなった。
 
あたしなにか、嫌われることをしてしまったんだろうか?
 
やっぱり、あんなふうに安っぽくふるまったのがいけなかったの?
 
そんな答えの出ない考えがぐるぐると回って泣きそうになった。
 
悪いことは重なるっていうけど、オリントが来なくなってからしばらくして体調を崩してしまい、鬱々とした日々を過ごしていた。
 
ラモナが毎日手伝いにきてくれなかったら、あたしは店を休んでしまっていただろう。
 
カウンターに肘をついて、ぼーっとしてるあたしに、ラモナが心配して話しかけてきた。
 
「大丈夫?なんか魂抜けてるよ」
 
「飽きられたのかな……」
 
「え?」
 
「あ……な、なんでもない」
 
鋭いラモナは、それですべてを理解したみたいで、ぱっと顔を輝かせた。
 
「あの人のこと?あの人と寝たの?」
 
しかたなく、頷いてみせた。
 
「本当に?やったじゃん!」
 
「相手は事故みたいなもんって思ってるかもしれないけどね」
 
「飽きられたって、最近来ないから?」
 
ラモナも、オリントが最近店に来ないことに気づいていたみたいだ。
 
「忙しいだけかもよ。学生さんなんでしょ?」
 
慰めとは分かっていても、ラモナの優しさに少しだけ励まされてしまう自分に、また気分が落ち込んだ。
 
―――あたしは馬鹿だ。
 
待つ女になんて、一番なりたくなかったのに。
 
まして相手は、住む世界がぜんぜん違うっていうのに。
 
貴族に見初められていい暮らしを手に入れるなんて、夢物語を信じていいのは、小さな女の子だけ。
 
あたしみたいなのがそんなの信じてたら、ただのお笑い種だよね。
 
あたしが信じていいのは、自分と、この店だけ。
 
バドゥ爺さんが死んでから、そう心に決めて頑張ってきたじゃないか。
 
ちょっと男を好きになったからって、何が変わるの。
 
あたしは、ずっとここで生きていかなきゃならないんだ。
 
自分に言い聞かせるようにして、あたしはいっそう仕事に精を出した。
 
おかげで、店はそれなりに繁盛して、ラモナに手伝ってもらう日も増えていった。
 
ラモナは夜の街に立つのをやめたみたいだった。
 
オリントのことを忘れることはできなかったけど、胸の痛みは日々の忙しさで紛らわせることはできた。
 
その痛みも、だんだん小さくなって、いずれは消えていってしまうのだろうと思っていた。
 
オリントが、再び店を訪れるまでは。
 
 
 
****
 
 

はじめは、風かと思った。
 
あたしは店じまいを済ませたあと、カウンターで売り上げを清算していた。
 
また音がして、あたしは誰かがドアをノックしているんだと気づいた。
 
「誰?」
 
「マイルスさん、僕です」
 
ドア越しに答えた声に、あたしは心臓が跳ね上がりそうになった。
 
カウンターから飛び出して、ドアを開けた。
 
しんと冷える夜の闇の中、オリントは黒い外套を纏って立っていた。
 
「……入っても?」
 
「好きにしたら」
 
そっけない態度とはうらはらに、あたしはオリントの訪問を心底喜んでいた。
 
つくづく、馬鹿な女だってわかってる。
 
冷たい空気が、オリントにまとわりつくように店に入ってきて、あたしはぶるっと体を震わせた。
 
先に口を開いたのは、オリントだった。
 
「ずっと来れなくて、すみませんでした」
 
「なんで謝るの。べつに待ってたわけじゃないし」
 
「本当に?」
 
その言葉に、かちんときてしまった。
 
「あんたが来るのを日がな一日、窓際でため息つきながら待ってると思ってた?ヒマもてあましてるご令嬢とは違うんだよ」
 
「すみませんでした」
 
「謝らないでよ。怒ってないから」
 
「どうしても仕上げなければならない論文があって」
 
「言い訳なんかいらないってば!」
 
言い放ったあと、はっとした。
 
見るとオリントは、傷ついた顔をしていた。
 
オリントは手に持っていた書類入れから、証書のようなものを出して見せてくれた。
 
「大学院を修了しました……故郷に帰ります」
 
「そう」
 
平気を装いながら、動揺して震える声を抑えられなかった。
 
ああ――とうとう、この瞬間が来てしまった。
 
次に彼が何を言うか、あたしは知ってる。
 
短い間だったけど、楽しかった。
 
またこっちに来たときは、逢いたい。
 
―――って。
 
恨みごとなんて言いたくなかったけど、思わず口をついて出ていた。
 
「あたしみたいのだったら、後腐れないって思った?」
 
涙が出そうだったけど、必死にこらえた。
 
「そんなつもりで、貴女を抱いたんじゃない」
 
「そう」
 
あたしは何気ないそぶりで背中を向けて、テーブルの上を片づけるふりをはじめた。
 
「マイルスさん」
 
「なによ?」
 
「……そんな顔をするくせに、どうして言ってくれないんですか」
 
「なにを?」
 
「僕は……貴女と離れたくありません。貴女はちがうんですか?」
 
あたしはスカートの裾を握りしめた。
 
「本当は、貴女をあんなふうに抱いてしまう前に伝えるべきだった」
 
背中越しに聞こえる声は、深く、穏やかで、真摯だった。
 
「ずっと後悔していました。貴女の弱みに付け込んで、貴女を抱いたことを。……結局、僕もデイビスにえらそうなことは言えない」
 
―――そんなふうに思ってたんだ。
 
あたしは、また違った胸の痛みを感じていた。
 
オリントが感じているのは後悔と責任感なんだ。
 
それ以外のなんでもない。 
 
自分のしたことをあの下卑た男と重ね合わせて、あたしを見るたび苦しむんだろうか。
 
そんなこと、してほしくなかった。
 
あたしは振り向かなかった。
 
振り向いたら、何かが壊れそうな気がしたんだ。
それが何かはわからなかったけど。
 
長い長い沈黙が、あたしたちの間を流れていった。
 
沈黙を破ったのは、オリントだった。
 
「知ってますか?貴女は僕を殺すこともできる―――たった一言で」
 
オリントの言葉は、悲痛な、それでいて最終通告のような決然とした響きを持っていた。
 
「―――言ってくれればいい。もし、僕を殺したければ。そうすれば、もう僕は貴女の前には現れません」
 
喉の奥から搾り出すような声だった。
 
あたしは振り返って、オリントの胸に飛び込みたいという衝動に駆られた。
 
でも、あたしは振り返らなかった。
 
そして、あたしが今ここで言わなければならない言葉を背中越しにオリントに投げた。
 
「帰って。もう来ないで」
 
耳が痛くなるほどの沈黙が、落ちた。
 
あたしは、さらに言った。
 
「さよなら」
 
オリントは、何も言わなかった。
 
靴が木の床を踏みしめる音がして、それからぱたんとドアが閉まった。
 
その途端、あたしは、糸が切れたみたいに声を上げて泣いてしまった。
 
あたしは泣き続けた。
 
夜が更けて、朝が来ても、泣き続けた。
 
手伝いに来たラモナが、ぐずぐず泣いてるあたしを見つけてびっくりしても、まだ泣き続けた。
 
しまいにはラモナガあきれるほど、泣いて泣いて泣き続けた。
  
泣き疲れて何もできないあたしを、ラモナは黙って世話してくれた。
 
ごはんも作ってくれたけど、まったく食べられなかった。
 
食べられないだけじゃなくて、匂いを嗅いだだけで気持ちが悪くなって、吐いてしまった。
 
ぐったりしてソファに寝込んでいると、ラモナがレモネードを作って持って来てくれた。
 
「おいしい……生き返る」
 
「もしかして、と思うけどさ」
 
ラモナはあたしの目をのぞきこんで真面目な顔で言った。
 
「つわりじゃない?」
 
「え?」
 
胃がひっくり返るような感じがして、あたしは流し台に走った。
 
レモネードを全部吐いてしまった。
 
ラモナは、あたしの背中をさすりながら言った。
 
「間違いないよ、オルガ」
 
信じたくなかった。
 
仲間の中では、そうなった子もたくさん見たけど、あたし自身は今まで一度も妊娠したことなかったから、自分は子供ができにくい体質なのかと思っていた。
 
こんなあたしが子供を育てていけるのか考えるだけで、途方に暮れてしまった。
 
恐ろしかった。
 
―――ほらね、男なんか本気で好きになるなって、みんな言ってるじゃないか。
 
なんでこんなに、悪いことがいっぺんに起こるんだろ。
 
ああ、とことんついてないったら。
 
 
 
 

****
 
 

「いいから、今はゆっくりしてなって」
 
ラモナの強引さに押し切られるようにして、体調が落ち着くまでという期限付きで、しばらく店をラモナにまかせることにした。
 
心配しすぎだ、とラモナに恨み言を言ったりもしたけど、実のところ今までのように働くのは無理だった。
 
午前はぐったりして、午後は眠って過ごすことが多くなった。
 
ラモナはもう、たいていのことは一人でできるし、店も仕切れるようになっていたから、安心して任せることはできた。
 
あたしは冗談めかして言った。
 
「あたしが死んだら、店はまかせたよ」
 
「オルガが死ぬころには、あたしもいいお婆ちゃんになっちゃってるよ!」
 
あたし、自分が思ってる以上に気弱になってたんだと思う。
 
日がな一日、何もしないでいると、くよくよと余計なことを考えてしまうものだ。
 
あたしは、自分が死んだ後のことを考えるようになっていた。
 
お腹の子供が一人ぼっちになって泣いているのを想像しては、一人夜明け前に涙にくれていた。
 
そんな中でも、幸せそうに働くラモナの明るさは、あたしを元気付けてくれた。
 
ラモナは、あたしがどうするつもりか、何も聞かなかった。
 
きっと、気にしているに違いなかった。
 
産むか産まないか、あたしが決めかねていることを、ラモナは気づいていたんだと思う。
 
あたしは、まだ何が一番いいのかわからなかった。
 
でも、まさに今このとき、あたしの中で必死に生きようとしている小さな命のことを考えると、健気で愛おしくてたまらなかった。
  
まるであたしの気持ちを読んだみたいに、ラモナはぽつりと言った。

「オルガの子供は幸せだろうな」
 
客足が途切れたひと時を見計らって、キッチンで紅茶を淹れてくれていた時だった。
 
「あたしもオルガの子供に生まれたかった」
 
湯気に包まれたラモナの横顔は、泣きたくなるほど優しかった。
 
紅茶をあたしのところまで持ってきてくれたラモナに、あたしは小さな声で言った。
 
「……ありがと」
 
ラモナは、去り際にあたしの頭にチュッとキスをした。
 
 
ラモナのおかげで、ゆっくり休養をとれたこともあって、あたしの体調は次第によくなってきた。
 
仕事に戻ってみると、どうしてなかなか、ラモナの働きぶりはすばらしいものだった。
 
ラモナ目当ての常連客も、増えているようだった。
 
「あたしの出る幕なしじゃない」
 
「馬鹿なこと言ってないで、手伝うなら手伝って!」
 
ラモナに追い立てられながら、あたしは笑ってしまった。
 
これじゃ、どっちが店主かわからないじゃない。
 
一日はあっという間に終わって、あたしもラモナもくたくただった。
 
店を閉めて、一息ついたところで、ラモナがホットワインを作ってくれた。
 
「オルガ、疲れてない?」
 
「大丈夫だよ。ありがと」
 
ずっと妹のように思っていたラモナが、頼もしく見えた。
 
「お店もラモナにまかせられるようになったし、気分変えて旅にでも出ちゃおうかな」
 
「その体で!?」
 
「冗談よ」
 
「ホントにあんたって、育ちは悪いわ、口は悪いわ、乱暴だわ……」
 
「ちょっと、ずいぶんじゃない?」
 
「でもあんたは、ここいらの人間とは違う。頭がいいし、才能あるし、心が腐ってない。いつまでも、ここにいていい人間じゃないよ」
 
ラモナはそう言って、あたしの頭をなでてくれた。
 
これじゃどっちが年上かわからない。
 
「大好きよ、オルガ。あんたには幸せになってほしいんだ」
 
ドアをたたく音がした。
 
「あたしが出るよ」
 
ラモナがさっと立って、ドアを開けた。
 
その瞬間、あたしは、息が止まるかと思った。
 
ドアの向こうには、よく見慣れた長身のシルエットがあった。
 
「どうして」
 
ラモナは、その客を店に入れると、あたしにウィンクをして、自分は外套掛けからストールを取って、そっと店から出て行った。
 
「ラモナさんが、貴女が体調を崩していると教えてくれたんです。……僕のせいで」
 
その言い方で、あたしはピンときた。
 
オリントは知ってるんだ。
 
そう思った途端、体から力が抜けた。
 
カウンターに手をついたけど、そのままバランスを崩してしまった。
 
すんでのところで、オリントが支えてくれなかったら、床に倒れていた。
 
オリントはあたしを椅子に座らせて、その前に跪いた。
 
「どうして……?」
 
あたしは馬鹿みたいに、同じ質問を繰り返した。
 
ほかに言葉が出てこなかった。
 
オリントは、あたしの頬を手のひらで包んだ。
 
「一度は諦めようと思いました。でも……できませんでした」
 
オリントの緑の瞳が、あたしの目、鼻、唇をなぞるように見つめていく。
 
「僕のせいで貴女が泣いたのだとしたら、希望はあると思った。だから、せめてこの気持ちを伝えてから故郷に帰ろうと思いました」
 
オリントは、あたしの手を取ると、顔をまっすぐにあたしに向けた。
 
「貴方を愛しています」
 
そう言って、あたしの手の甲にキスをした。
 
「どうか一緒にウォルシャーに帰ってほしい。ひとりでは帰れないと、今朝家族に手紙を出しました」
 
その瞬間、あたしの目から涙がこぼれた。
 
どうしていいかわからなかった。

「バカね……貴族の坊ちゃんが、あたしなんか」
 
「僕は貴族じゃありません。田舎の、小さな農家の息子ですよ」
 
「そうなの?」
 
思わず声を上げると、オリントは笑った。
 
「残念ながら」
 
肩をすくめて言うオリントに、あたしは抱きついた。
 
「本当に?」
 
「失望しましたか?」
 
あたしは頭を思い切り横に振った。
 
「爵位も、財産も、ありません。あるのは学位と、……愛する人を選ぶ自由です」
 
「うん……」
 
あたしはオリントの広い背中に手を回した。
 
オリントは、あたしの首筋にキスして、耳元でささやいた。
 
「返事は?」
 
あたしは、喉元まで出かかった言葉を抑えて、オリントから体を離した。
 
「ねえ、あたしの小さいころの夢、知ってる?」
 
突拍子もないその質問に、オリントは笑った。
 
「何ですか?」
 
「世界中を旅する冒険者」
 
オリントは、今度は声を出して笑った。
 
「それはいい。いつか、一緒に行きましょう」
 
「今すぐがいいの」
 
「でも、その体では……」
 
「手始めにウォルシャーに行ってみるのはどう?いいとこなんでしょ?」
 
そのときのオリントの顔を、あたしは一生忘れないと思う。
 
ぱあっと光がさしたみたいになって、でも少し泣きそうだった。
 
「―――ええ、きっと離れがたくなりますよ」
 
 
 

 
THE END
 

 
 

  

web拍手

 

Back to Novels

Back to Contents

 

inserted by FC2 system