犬と姫君

by Nana Jugo

 

 
俺の名は、スタン。
 
背は6フィート半、厚い胸板と、太い腕が自慢のイケメン用心棒だ。
 
この強靭なからだを武器に、日夜雇い主を守るため働いている。
 
好きなものは、女、酒、筋トレ、ゆでたまご。
 
タバコは体に悪いから吸わねえぜ。
 
ざゆうのめいは、「弱きを助け、悪しきを蹴る!」だ。
 
俺の丸太みたいな足で蹴られたら、そりゃあ痛いに決まってるぜ。
 
そんな俺はもちろん女にはモテモテだが、彼女ができたら浮気はぜったいしねえタイプだ。
 
とはいえ、今は、仕事が忙しくて彼女を作る時間もねーんだが……。
 
 
 
 
****
 
 
ここはハンスヴィルの小さな宿。
 
俺たちはいま、今夜の宿の交渉中だ。
 
雇い主は、けっこう部屋とかにうるさくて、ちょっとでも汚かったりネズミやムシが出たりすると、すぐ文句を言いやがる。
 
今日の宿は、お気に召せばいいんだが……。
 
って、言ってるうちに、やべ。雇い主がこっちきた。
 
「用心棒。うどの大木みたいに突っ立ってないで早く部屋を調べろ」
 
………。
 
女でなけりゃ、ぶんなぐって、窓から放り出してるところだぜ。
 
この生意気な女が俺の今の雇い主―――ヴェスリーだ。
 
年は俺とそう変わらないみたいだが、さるご貴族様のご令嬢で、いろいろあって命を狙われている。
 
性格は、すげーキツくて、サイアクだ。
 
顔と体は、極上なんだけど……。 
 
俺は案内された部屋をざっと見まわして、物陰に人が隠れていたり、怪しいものがないか確認した。
 
俺がいいって言うのも待たず、姫さんはさっさと部屋に入って荷物を下ろす。
 
………礼とか言えねえのか?
 
かわいくねー女。
 
本当に外見だけは、そうそういない極上の美女なんだが。
 
もったいねえ。
 
「用心棒」
 
「な、なんだよ」
 
「お前、私の着替えまで見張ってるつもりか?」
 
「わ、悪い…」
 
って、あわてて外に出たけど、なんでこんな扱いされなきゃいけねーんだよ。
 
このお姫さんは、俺を呼べば来る犬かなにかだと思ってるらしい。
 
 
 
 
 
****
 
 
姫さんの着替えが終わると、ようやく部屋に入るお許しが出た。
 
いつ何時でも姫さんを守れるように、基本的に部屋は一緒だ。
 
でも俺は床にマットを敷いて寝る。
 
もちろん、指一本触らせちゃくれねえ。
 
手が届きそうな位置で姫さんの寝息を聞いてると、正直キビしーときもある。
 
そういうときは、頭の中でうさぎを数える。
 
俺の鋼の理性の見せどころだ。
 
姫さんは四六時中、命をつけ狙われている。
 
それも血のつながった自分の兄弟にだ。
 
逃げるように国を出たが、それでもまだ追手はやってくる。
 
だからせめて、眠ってる時間くらいは安らかに休ませてやりてぇと思う。
 
 
一晩寝て、目が覚めると姫さんはベッドの上で、うーんと伸びをした。

どうやら今回の宿はお気に召したようだ。

朝の光に透ける淡い茶色の髪が、きらきらしてる。

こうしてると、ふつうの女の子だよなぁ。

思わず見とれてると、姫さんがこっちに気づいて、いつもの怖い顔になった。
 
「用心棒。何見てる」
 
「あっ、えっと。すまねえ……」
 
お?ちょっと姫さん、赤くなってね?
 
恥ずかしかったのか?
 
ときどき、かわいいとこ、あるんだけどなぁ。
 
 
 
 
****
 
 
宿で軽く朝飯を食って、外に出かけることにした。
 
ハンスヴィルは港のある商業都市で、いろんな国や町からたくさんの人間が出入りする。
 
だから、俺たちみたいなのは簡単に身を紛れ込ませることができる。
 
それにここは、俺の生まれ育った町でもある。
 
どこに何があって、誰が頼りになるか、よくわかってる。
 
姫さんは、厚手の男物の服を来て、頭と顔にターバンを巻きつけている。
 
これが姫さんの普段着だ。
 
体の線がまったく見えないから、ぱっと見は、13,4歳の男のガキだ。
 
そんななりでも、女物の服とか、髪飾りとか、遠慮がちに店をのぞいている。
 
本当だったら、綺麗な服きて、宝石もたくさんつけて、社交界とかで花みてえに笑ってるんだろうに。
 
 
「あら、スタンじゃない!」
 
大通りを歩いていたら、ララが声をかけてきた。
 
昔馴染みの娼婦だ。
 
この界隈の悪ガキどもは全員ララと筆おろししたとか、しないとか……。
 
とにかく俺らが子供のころから、まったく外見が変わってねえ化け物みたいな美女だ。
 
「何年ぶり?あんた、戻ってきたの?」
 
「ああ、野暮用があってな」
 
「あいかわらずいい体ねー。店に来てくれるんでしょ?待ってるわ」
 
そう言いながら、色っぽい目つきで俺のケツを撫でていきやがった。
 
う……姫さんの目が痛いぜ。
 
 
 
 
****
 
 
クラインの仕事場兼ねぐらは、裏通りからさらに一本入った薄暗い路地にある。
 
あたりは、飲んだくれや中毒がごろごろ道にねっ転がっているような場末だ。
 
緊張した面持ちの姫さんを守るようにして奥へと進むと、路地の行き止まりに扉がある。 
 
勝手に扉を開けて中に入る。
 
呼び鈴がお飾り程度にあるにはあるが、鳴らしたところでヤツはどうせ、部屋にこもってネチネチ研究なんかやってて、聞こえねえに違いねえ。
 
家んなかも、暗くて辛気臭くてしようがねえ。
 
俺は姫さんを連れて、廊下の奥の研究室へと直行した。
 
どかんと扉を開ける。
 
「よーう。スタン様のおでましだぜ」
 
「あ?」
 
クラインは机から顔を上げて、機嫌が悪そうに生返事をした。
 
俺だとわかると、神経質そうな細い眉をぴくっと上げた。
 
「お前はいっつも急に来るのな」
 
「なんだよ、じゃあいついつ行きますって手紙書けってのか?」
 
「お前の汚い字なんか読めるか」
 
「口のへらねーやつ」
  
線が細く、長い銀色の髪を無造作に後ろで結わえているクラインは、ぱっと見、学生か、神官見習いのように見える。
 
だが、仕事はそんなお上品なもんじゃねえ。
 
ヤツの専門は、化け物退治だ。
 
職業柄、怪しげな薬や呪術にも通じている。
 
俺ら仲間から言わせると、「懐から何が出てくるかわからない男」だ。
 
そんなだから、人もあんまり寄りつかねえし、一緒に住んでる家族もいねえ。
 
俺たちがしばらく身を寄せるのに、もってこいの場所だった。
 
「しばらく泊めてくれ」
 
「あ?なんかやらかしたのか?」
 
「いや仕事だ。この人に雇われた」
 
クラインは、姫さんをちらりと見た。
 
「失礼、私はクライン・レーベルです」
 
クラインは、ひとめで女だとわかったらしい。態度が一変する。
 
「ヴェスリーだ」
 
姫さんは、差し出された手をとった。
 
クラインは、気障ったらしく、その手に口づけする。
 
「こんなあばら家でよければ、ぜひとも滞在してください」
 
「ご親切にありがとう」
 
クラインの紳士的なふるまいに、姫さんも、少なからず気をよくしたみたいだ。
 
 
そのとき、玄関の呼び鈴が鳴った。
 
「客が来たようだ。ちょっと上で待ってろ」
 
クラインはそう言ってさっさと行ってしまった。
 
俺は姫さんを連れて、二階へ上がった。
 
二階には客室がひと間とクラインの寝床、それに居間がある。
 
居間とはいっても、クラインの研究材料のあやしい仮面やら蛇の皮やらどくろやらが置いてあるので、あんまり居心地がいいとは言えねえ。
 
俺は姫さんを客室に案内した。
 
部屋は、通り側に面していて、窓もあった。
 
物置と化しているかと思ったら、男の一人暮らしにしては小奇麗にしてある。
 
「思ったより綺麗にしてたな、クラインのやつ」
 
「彼はお前の友達なのか?」
 
「ああ、幼馴染だ。ミルク飲んでた歳から知ってる」
 
「さっきの女の人も?」
 
「ああ、ララは……」
 
と言いかけて、口ごもった。
 
どう考えても、姫さんの前で口にするにはふさわしくない話になりそうだったからだ。
 
「……親父の知り合いさ」
 
すまん、天国の親父…濡れ衣をかぶせちまった。
 
姫さんは、庶民の家が珍しいのか、あちこち見て回っていた。
 
しばらくして飽きたのか、ちょこんと俺の隣に座った。
 
……?
 
こんなに近くに姫さんが自分から寄ってくるなんて、珍しいな。
 
姫さんが、じぃっと俺を見つめてる。
 
な、なんか変な雰囲気だぜ。
 
こんなに姫さんに見つめられたことって、今までいっかいもなかった。
 
俺はよく、姫さんのこと見てっけど……。
 
「用心棒」
 
ふと、姫さんが言った。
 
「なんだ?」
 
「お前の金髪、昔知ってたやつに似てる」
 
ちっ、元カレかなんかかよ……。
 
と思ってると、姫さんが手を伸ばして、俺の髪を触り始めた。
 
「毛先いたんでるぞ」
 
「気にしたこともねえよ」
 
姫さんの冷たい指先が、ときどき頬の皮膚にふれると、ぞくっとした。
 
「用心棒」
 
「んだよ」
 
「お前、無精ひげ生やして、もさっとしたなりしてるけど、けっこういい男だな」
 
「えっ!!……そーすか?」
 
「ああ」
 
しげしげと、俺の顔を見ている。
 
てか、けっこう距離近い……。どきどきするんスけど。
 
「お前の瞳……青いんだな……」
 
 
ぜってーおかしい。
 
 
姫さん、おかしい。
 
ぜってーにおかしいのはわかってるんだが、身体が動かねえ。
 
姫さんの顔が、だんだん近づいてくる。
 
ああああーーーどーしよーーーー!!!
 
なすすべもないまま硬直してたら、なんと姫さんが、俺の膝に乗っかってきた。
 
やわらかいケツの感触が腿に直接……やべー。触りてえ。
 
体重なんてないみたいに軽い。
   
それに、なんか、いいにおいがする。
 
香水か?それとも姫さん自身のにおいかな。
 
「キスしたい?」
 
そんなこと、聞くなよ。
 
つやつやの唇に、さっきからもう目がクギづけだっての。
 
「うん」
 
「目つむって」
 
言われた通り、ぎゅっと目をつむる。
 
待つ。
 
ちょっと口がとんがっちまってる気がする。
 
待つ。
 
まだ、……か?
 
待つ。
 
ちょっと薄目を開ける。
 
ちょうどそのとき、姫さんが俺に向かってナイフを振り下ろそうとしてた。
 
「うおっ!?」
 
びっくりして、姫さんをはらいのけちまった。
 
姫さんは、床に座り込んだ。
 
ナイフはまだ、姫さんの手の中だ。
 
「ひ、姫さん?」
 
姫さんは、こんどは自分の首をかききろうとする。
 
「ま、まてまてっ!」 
 
手をつかみ阻止する。ものすごい暴れようだ。
 
いくら女とはいえ、刃物を持って死に物狂いで暴れる人間をそう易々と取り押さえられるもんじゃねえ。
 
俺は、一瞬の隙をついて、姫さんのみぞおちに拳を喰らわせる。
 
姫さんは、ぱったりと気を失っちまった。
 
騒ぎを聞きつけたクラインがやってきた。
 
「どうした?」
 
「いや、急に姫さんが暴れ出して……」
 
クラインが手際よく、姫さんの脈や、瞳孔の様子を見る。
 
「ん…白目が、青光りしているな」 
 
クラインはさっと立ちあがって、どこかへ行ったかと思ったら、でっかい本をもって帰ってきた。
 
パラパラとページをめくる。目当てのページに行きついたのか、食い入るように読んでいる。
 
「これは……憑依草を飲まされたな」
 
「ひょうい?なんだそりゃ」
 
「魔術師の秘薬だ。これを飲んだ人間に、秘術を使って一定時間乗り移れる」
 
「えっ、じゃあ……これ中身は姫さんじゃなく、魔術師ってことか?」
 
「そんなに完璧に切り替えはできない。半分覚醒、半分憑依ってところだ。ところどころ彼女自身の自我が現れてるはずだ」
 
クラインは、姫さんの体を抱き上げると、そばにあったベッドに運んだ。
 
「おそらく彼女を狙う輩が、しかけた罠だろう。彼女自身が、暗殺者になるように……」
 
その言葉に、ぞっとした。
 
「最強最悪の暗殺者じゃねーか」
 
「しかし、この秘術を使えるのは、俺が知ってる限り大魔術師タイロンしかいない。どれだけ金をつんだのか、想像もつかないな」
 
「タイロン……って女?」
 
「いや、男だ。どうして?」
 
「……」
 
「とにかく、薬が切れるまでが勝負だ。彼女が自分を傷つけないように縛って見張っておけ」
 
「あ、ああ。そうするぜ」
 
「薬の効き目は、長くて一日。話からすると、怪しいのは今朝の食事だから、明日の朝にはもとにもどるはずだ」
 
「わかった。ありがとよ クライン」
 
「とにかく、宿は引き払った方がいいな」
 
「明日荷物を取りに行く。今日はこの部屋を借りてもいいな?」
 
「かまわんが……客間は一部屋しか」
 
「大丈夫。俺らいっつも一緒だから」
 
「へえ」
 
クラインは興味をひかれたように、口の端をにっと上げた。
 
「くれぐれも、誘いにのるんじゃないぞ」
 
「わーってるって」
 
 
 
 
 
****
 
 
 
「目が覚めたか?」
 
「私は……ッこれは?」
 
姫さんが目覚めたころには、もう外は夕闇だった。
 
「悪ぃけど、今晩はそうやっててもらうぜ」
 
姫さんは一生懸命、手をはずそうとするが、もちろんかなわない。
 
後ろ手に縛られたまま、身をよじるようにして叫んだ。
 
「用心棒ッ!」
 
「あんま暴れんな。ケガするぞ」
 
「こんなことして、ただで済むと思ってるのか?」
 
「俺の使命は、あんたの命を守ることだ。つまりあんたの命が守れれば、何でもやるってこと」
 
「これをはずせ!!」
 
姫さんは、つかまった猫みたいに、死に物狂いで暴れ出した。
 
あんまり暴れるんで、ベッドから落ちちまうんじゃないかと思った。
 
しばらくして、どうしようもないと悟ったのか、姫さんは暴れるのをやめた。
 
「ひどい……なんでこんな目に」
 
そう言って、しくしく泣きはじめた。
 
ちょっと胸が痛むぜ。
 
「腕が痛い」
 
「え?」
 
「横になってると、腕が痛い。起こしてくれ」
 
柔らかい布で、極力痛まないように縛ったつもりだったが、ずっと後ろ手に縛られている姿勢のままは、疲れるだろう。
 
俺は姫さんの体を抱き上げた。 
 
姫さんの吐息が首にかかる。
 
ベッドの端に座らせてやる。
 
姫さんが涙をいっぱいためた綺麗な目で俺をじっと見上げた。
 
どきっとする。
 
長いまつげ。すべすべした白い肌、落ちかかる淡い茶色のおくれ毛…。
 
やべーな。さっきの余韻が、まだ残ってる。
 
このままベッドに押し倒したい……。
 
「泣くなよ」
 
頬に流れた涙ををぬぐってやる。
 
これはどっちだ?姫さんなのか?魔術師なのか?
 
ぐるぐると考えが回る。
 
姫さんが、俺の手のひらに頬をすりつけてくる。
 
すべすべしてて気持ちいい。
  
「用心棒」
 
「ん?」
 
「お前、いいやつだな」
 
「やっとわかった?あんた運がいいぜ、俺みたいなの雇えて」
 
ウインクしてみせると、姫さんは、ふっと笑った。
 
「うん。そうだな」
 
おやおや?
 
なんか、しおらしいじゃねーか。
 
「お前のこと嫌いじゃないよ。はじめから」
 
「えっ!?ほんとに?」
 
「ひとめ見たときから気にいってた。昔飼ってた犬にそっくりで」
 
………。
 
犬? 
 
犬って???
 
「でかくって、強くて、バカで、優しくて。ほんとにそっくりだ」
 
それって、誉められてる…の…か?
 
「もとは、母の犬だった。かわいいやつだった」
 
姫さんは、ぽつりぽつりと話した。
 
「知ってるかもしれないが、私の母は王家と血縁にある家の出で、私はその一人子なんだ。
 
父は側室との間に何人も子供がいて、親ほど年のはなれた兄もいる。ただ、その中でも私は特別扱いだった。
 
それが皆を怒らせたんだ。母が最初に亡くなって、次に父が亡くなった。私は一人ぼっちになった。
 
殺されはせずとも、生かされもしなかった。ずっと屋敷に一人閉じ込められていた」
 
姫さんの声は、少し震えていた。
 
「あいつだけが、友達だった。どこにいても、私が呼べばかならず駆けつけてくれた。今のお前みたいに」
 
俺は思わず、姫さんを抱き寄せた。
 
姫さんの頭に軽くキスして、背中をぽんぽんたたいてやった。
 
姫さんはただ、口下手なだけなんだよな。
 
いろんな思いを抱えこんでるくせに、誰にも弱いところを見せないようにしてる。
 
本当は、家族に命を狙われるなんて、つらくてたまらねえだろうに。
 
姫さんは、しばらく俺に抱かれていたが、ふと顔を上げて恥ずかしそうに笑って言った。
 
「私のことが大好きなとこも、似てたらいいのにな」 
 
腕の中でそんなこと言われると、ズキュンときちまうぜ。
 
もー犬でもいいし!
 
「俺だって、姫さんのこと……」
 
しかし、ふとある考えがよぎる。
 
俺はもしかすると、変態魔術師に睦言をささやこうとしてるのかもしれねえ。
 
「ひ、姫さん。今日のところは、もう休もう。明日になればきっと良くなってるはずだ」
 
「用心棒。お前、私のこと気が強くて、いけすかない生意気な女って思ってるだろ?」
 
姫さんはいたずらっぽく言った。
 
最初はそりゃー思ってました……。でも。
 
「でも、この体は好きなんだろ?いつも見てる」
 
「えっ」
 
「好きにしていいよ、お前なら」
 
………。
 
へ?
 
姫さん、なんつった?
 
「ね、そのかわり手をはずしてくれる?」
 
う……やっぱり、それが狙いなのか。
 
「そりゃあダメだ」
 
「頑固だな」
 
そういって、俺の胸にもたれてきた。
 
「じゃあ、お前が脱がせて」
 
「え……」
 
絶対罠だってわかってる。
 
わかってはいるんだが、目の前においしそーな体があって、俺に好きにしていいと言っている。
 
据え膳、しかも毒入りってのはわかっちゃいる。
 
わかっちゃいるんだが。
 
 
………。
 
 
 
………………。
 
 
 
………………………。
 
 
き、キスくらいならいいよな。
 
姫さんの顎に指をかけて、上を向かせた。
 
ピンク色の唇に引き寄せられるように、キスした。
 
柔らけー。
 
最初、唇を重ねるだけで、食むようにしてたが、我慢できなくなって、舌を入れた。
 
姫さんの体がびくってして、一瞬逃げようとしたが、頭を手で押さえて深く深く舌をさし入れた。
 
「ん…ふぅ」
 
姫さんが息継ぎするみたいに、喘ぐ。
 
顎から首へ、あったかい首筋から、鎖骨をすべるように、手を降ろしていく。 
 
その先に、ふっくらした胸があった。
 
服の上からでも意外なくらいの量感があって、思わず下から持ち上げるように触っちまった。
 
「ぁ…ん」
 
姫さんの口から、ものすげー色っぽい声が漏れた。
 
こんな声、ふだん聞いたことねえ。
 
こねるようにすると、もっと切ない声になった。
  
その声にかぶせるように、口づけをする。
 
夢中で舌を吸ったり、軽く噛んだりする。
 
姫さんもそれに応えてくれる。
 
ふつふつと血が湧き上がる感触が、下腹から一気に一点に集中していく。
 
「やべーよ、姫さん。俺…引っ込みつかなくなりそう」
 
てか、文字通り、もう一部が引っ込みつかなくなっちまってる。
 
なのに姫さんは、さらに煽るように、俺の喉仏や首筋をちろちろと舌で愛撫する。
 
「ホント、やべーって…」
 
「見せてみろ…」 
 
姫さんが、俺の耳を舐めながら言った。
 
「なにを…?」
 
「お前のコレ、どうなっているのか、見せてみろ、と言ってる」
 
そう言って、俺の股間に目を落とした。
 
 
え……
 
 
 
ええええええ!
 
 
まじで?
 
今?
 
俺、そんなMじゃねえんだけど……。
 
でも姫さんにそう命令されると、そうしなきゃいけねえような気が……。
 
気恥ずかしさと期待感で、むずむずする気持ちを抑え、わざと憮然とした顔をして、姫さんの前に立った。
 
ベルトをはずして中から取り出すと、自力で屹立するほどに固くなっていた。
 
「すごいな……」
 
すっかり勃ち上がったそれは、たしかに姫さんの小さな顔と同じくらいの長さはある。
 
姫さんの華奢な身体を見てると、こんなの入れて大丈夫かと思っちまう。
 
でも姫さんはそんな心配をよそに、そっと顔を寄せて、ぺろぺろ舐めはじめた。
 
「おッ…おい」
 
思いがけない刺激に、俺は思わず腰を引いちまった。
 
それでも姫さんは、躊躇せず、それをぱっくりと咥えた。

姫さんが、後ろ手に縛られたまま、夢中で俺のものを咥えている。
 
姫さんのつやつやした唇から、俺のものが出たり入ったりしてる。
 
信じられねえ。姫さんが、俺のを咥えてる―――。
 
姫さんの唾液で、ぬらぬらと光っている。
 
その眺めだけで、あっという間にいっちまいそうなのに、姫さんは舌を器用に動かして、先の方や、裏のイイところを刺激してくる。
 
「も…やべー…姫さん、俺……」
 
「出せ……許す」
 
裏筋を舐めながら、とろけそうな声で、姫さんが言った。
 
そしてもう一度、俺のを口に含んだ。
 
「うぁ」
 
我ながら、恥ずかしい声出しちまった。
 
腰が勝手に動いちまう。
 
姫さんが……口をすぼめて思い切り扱きはじめる。
 
全部入りきらないが、それでも喉の深いところまで懸命に飲み込んでくれる。
 
俺は片手を姫さんの頭に添えて、動きを助けるようにする。
 
いきなり腰の奥から、ものすごい勢いで快感が押し上げてくる。
 
もうそこからは呆気ないもんだ。
 
「で、出…ッ」
 
姫さんの頭をつかんで、腰をぐっと突き出し、身体をぶるぶる震わせながら口の中にぜんぶ出しきった。
 
「んんっ」
 
姫さんはぎゅっと目をつむって、俺の出したものを飲み下した。
 
ずるりと口から引きずり出すと、口と俺のものの先に白い糸が引いた。 
 
息があがっちまったぜ……ハーハー言ってる、俺。
 
姫さんも、しばらく息をつくようにしていたが、またしゃぶりつく。
 
口のまわりが俺の精液でべとべとだ。
 
中のまで吸い出すようにちゅうちゅう吸われると、また……。
 
あっという間に、反りかえるくらい固くなっちまっう。
 
「マズいって……キリがねー」
 
興奮がおさまらねえ。
 
息がずっと、上がりっぱなしだ。
 
俺も、なんか薬もられたのかな……?
 
「姫さん……すげー入れたい」
 
また口に含もうとしている姫さんをとめて、上を向かせた。
 
「入れていい?ちょっとだけ」
 
ちょっとで済むわけねーんだが。 
 
姫さんはしばらく黙って俺を見上げていたが、すっと体を起して、俺の目をまっすぐ見つめながら請うように言った。
 
「じゃあ手……はずして?」
 
「そ、それはダメだよ、姫さん」
 
「どうして?」
 
「自分を傷つけるだろ?姫さんは今、ふつうじゃねんだ」
 
姫さんのうなじに舌を這わせた。
 
耳に直接言葉を吹き込むようにささやく。
 
「それに、しばられてる姫さん、すげーエロい。むしろ、このまま突っ込みてえんだけど」
 
耳たぶを食むようにして、ついばむ。熱でもあるみてえに熱い。
 
「いい?」
 
俺の問いに、姫さんは怒ったみたいな顔で答えた。
 
 「……許す」
 
そして姫さんは、俺にキスしてきた。
 
すげーかわいい。
 
俺は俺で、今までにないくらい興奮しちまってた。
 
くらくら目まいがするほどだ。
 
なんかもう、このまま寝首かかれてもかまわねえって気すらしてきた。
 
 
 
 
****
 
 
脱げなかった上着が、縛った手首のところにからまったままだ。
 
あんまりベッドに顔を押し付けさせないように気をつけながら、ひざまずかせて尻を上げさせる。
 
もうすっかり濡れてる割れ目にそって、指を動かす。
 
蕾から、後ろの穴まで、潤滑液を撫でのばすように指を行き来させると、姫さんは泣いてるみてえな声を出した。
 
指を一本、入口に滑り込ませてみた。
 
意外なほどたやすく、ぬるりと飲み込んだ。
 
静かに出し入れを繰り返して、ときどき中の壁を押すように刺激してやる。
 
同時に、ピンク色の蕾を舌の先でつっついたり、唇で軽く食んだりすると、姫さんの膝がガクガクしてきた。
 
「ようじんぼう…っ」
 
「もうちょっとだ。いきなりはつらいだろ」
 
指をもう一本入れて、中を広げるように二本の指を開いた。
 
姫さんがびくっと体を震わせる。
 
「痛いか?」
 
姫さんは、ベッドに押し当てた顔をふるふると振った。
 
さらに指を一本増やした。
 
中をかき回すようにすると、姫さんが腰を浮かせた。
 
くちゅくちゅと卑猥な音がする。
 
「ああっ…ん…いやぁ」 
 
姫さんはとろけそうな声で、どこがイイのか俺に教えてくれる。
 
その反応がうれしくて、姫さんの中を夢中になって探る。
 
指も、姫さんのあそこも、びしょびしょだ。
 
指を引き抜いて、絡まった液体を舐めとる。
 
ついでに、俺のいきり立ったモノにも塗りたくる。
 
姫さんの腰を両手でしっかり固定すると、 入口にあてがって、ゆっくりと挿れていく。
 
―――女はすげえ、と俺はいつも思う。
 
こんな華奢な身体なのに、でかい俺のモノでも、最後にはぜんぶ入っちまう。
 
姫さんの体は、俺を受け入れるようにできているんだと思うと、なんか感動しちまう。
 
じわじわと奥へと進んでいくと、姫さんは、押し殺したように小さく悲鳴を上げた。
 
そうはいっても、相当つらいはずだ。
 
入口がキツい上に、内壁は俺のを押し出そうとして、絞るようにうごめいてる。
 
やべー。本気で、すぐいっちまいそうだ。
 
まず一回姫さんをいかさねーと。
 
良さそうなところを突くように、浅く出し入れした。
 
中がゆるむと、少しずつ、奥へと侵入をこころみる。
 
慎重に、角度を微妙に変えながら、なるべく抵抗感の少ない道を選んで進んでいく。
 
時間をかけて、ぜんぶ収めちまうと、俺も姫さんも、ほーっと息をついた。
 
右手をのばして、くしゃくしゃになった姫さんの髪に指をさし入れる。
 
しっとりと汗をかいている。
 
「つらくないか?」
 
「だい…じょうぶ」
 
姫さんは、けなげに答える。
 
「姫さん、じつはまだこれで終わりじゃないんだ」
 
「え?」
 
「もちょっと、我慢してくれな」
 
「どういう……ああッ!」
 
ゆっくりと引き抜いて、一気に押し込んだ。
 
姫さんの体が、はじかれたように跳ねた。
 
一度せきをきっちまうと、もうとめることはできなかった。
 
姫さんを気遣う余裕も失せて、 ただ上り詰めるためだけに腰をぶつけた。
 
肉のぶつかる音が、部屋に響く。
 
「はぁ、はぁっ…あっ」
 
姫さんの体が上へ上へとずり上がる。
 
そのたびに両手で姫さんの腰をつかんで、引き寄せる。
 
白くて丸い尻が、ゴムまりにみたいに俺の腹筋に当たってはねる。
 
かわいすぎるぜ……。
 
だんだん、こっちもつらくなってきた。
 
手加減してる余裕がまったくねえ……。
 
また……迫り上げてくる。
 
「ああ……よ、うじんぼう…ダメ…もう」
 
「姫さんッ……いッ」
 
 二回目なのに、まるで何週間も溜めてたみたいに、勢いよくいっちまった。
 
 
 
 
****
 
 
窓の外はもう、白みはじめていた。
 
もう何回出したか覚えてねーくらい、一晩じゅうやってた。
 
姫さんの身体が信じられないくらいの量の精液でまみれている。
 
とうぜん中にも、しこたま出したし……。
 
ちょ、ちょっとやりすぎたかも。
 
姫さんは、ぐったりして死んだように眠っている。
 
そろそろ薬が切れてもいいころだ。
 
起きた。
 
すごい目で睨んでる。
 
これは―――まずい。
 
「わ、わりぃ、姫さん。こんなに汚しちまって……」
 
「許さん」
 
「でも姫さんがいいって……」
 
「限度がある」
 
しょーがねえよー。若いんだからよー。
 
俺は姫さんに平謝りしながら、体を拭いた。
 
姫さんは、ぐったりしてなすがままだ。
 
姫さんの体は、陽の光の中で見ると、ますます綺麗だった。
 
裸のまま、恥ずかしがりもせず、気持ち良さそうに俺に身をまかせている。
 
あんまり気持ち良さそうだったんで、思わず白い乳房を揉んじまった。
 
それから先端を口に含んで、舌でつっついてみた。
 
姫さんが、目をあけてじろっと見た。
 
「またやるのか?」
 
「え?…いや、その……ちょっとだけ」
 
「今はムリだ…体が痛い」
 
そう言って、猫みたいにゆったり伸びをしながら、俺の腕の中からするりと逃げた。
 
「お前なんともないのか?本当に頑丈だな」
 
「いや、俺は男だし」 
 
「ふーん、そんなもんなのか」
 
「姫さんの飼ってた犬と同じだよ。ご主人様の幸せが、三度の飯よりもうれしんだ」
  
きょとんとしている。
 
「犬?犬なんか、飼ったことない」
 
ん?
 
「子どものころの、唯一の友達だったって言ってたじゃねーか」
 
「飼ったことあるのは馬くらいだ。なに寝ぼけてるんだ?」
 
これは姫さん、本気だ。
 
ということは、あの話って?
 
うそ?
 
ていうか、
 
変態魔術師の
 
つ く り ば な し ?
 
てことは、昨日は、どっからどこまでが姫さんだったんだ……?
 
 
 
………。
 
………。
 
………。
 
 
 
とにかく、変態魔術師、
 
てめえは会ったらぜってえ殺す。
 
 
 
 
THE END

  

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